ゆく先々で説明する手間がないので、便利である。 ところが、帽子というものを被ると、その外形的
相似も、いささか揺らぐらしい...
ある時期、帽子集めに凝っていたことがある。 帽子を置いてある店をみつけると、ふらりと入り、いくつか被ってみている。 そうしているうちに、しだいに気に入ってきて、買ってしまうのだ。 ある日、これは実用的だと判断して、ふかふかのロシア帽を購入した。 これを被っていれば、たとえどんなに気温が低くとも、頭が寒いということはない... 続き/Page
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(C) ペトラ・レイナー 写真集
「ウィーンの古い小売商店」 より 婦人帽子屋
オーストリアの写真家 |
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冬のドイツには、もちろん持っていった。 古城めぐりや、ロマンチック街道の赤い町ローテンブルクをめぐる際には、小雨がちだったこともあって、歩くのにも、スケッチをするのにも重宝した。 しかし、現地のドイツ人にとっては、そのくらいの寒さは毎度(毎冬)のことなのであろう、帽子をしてるひとは、ほとんど見かけることはなかった。
いつもは、日本人とすぐに分かるはずの筆者だが、ロシア帽を被っていると、一見して中国人だと思われるらしかった。 たしかに、考えてみれば、ロシアとの国境に近いほうの中国のひとたちであれば、普段から被っていそうでもある。 ひとが身に着けるものに抱く、固有なイメージとは、意外と確固たるものがあるのだろう。
けっこうな寒さだと思ったドイツ。 この感じから推察してみれば、ロシア帽を被ったひとをニュースなどで多くみる、冬のモスクワは、さぞかし寒いと予想される。 だが、せっかくの帽子でもあるので、いつかは被って訪れてみたく思う。
さて、髪の毛が薄くなったことをきっかけに、帽子を被るひともおられるが、筆者の髪の毛の発育の具合は、いっこうに衰える様子がない。 しばらく切らないでいると、ずいぶんと長くなる。 頭を使わないひとは、薄くならないとおっしゃる方もいるが、かの物理学者アルバート・アインシュタイン(1879-1955)をみれば、そうなのかどうかは、疑わしくも思える。
1999年6月に発売になった、大正製薬の毛髪用剤 「リアップ」 をご存知だろうか? 効果が高いとして、薬局やドラックストアなどで、品切れ状態が続くなど、もっぱら壮年期以上の方の間で、熱狂的な社会現象を引き起こした。 確かに、使っているという方をみていると、髪の毛が増えてきているようであった...
発売から3ヶ月くらい経ったころである。 まさにブームの頂点あたりで、副作用の疑いのある心臓病の例があると、報道があった。 製品の性格上、利用者層の年齢が、もともと高かったせいなのだろう、のちの、大正製薬の説明によると、因果関係は認められなかったという。
1998年のワールドカップ・サッカーで、開催国のフランスを優勝へと導いた立役者、ジネディーヌ・ジダン(1972-)をみても分かるが、そもそも、髪の毛の多い少ないと、ひとの値打ちとは、あまり関係がないように思う。 だが、気にするひとの人口は、想像以上に多いのかもしれない。
副作用の報道があった翌朝、新聞を読んでいたら、「大正製薬 株価 大幅下落、アデランス株
急騰」 とあった。 髪の毛の量とは、日本経済をも...動かすのである。
写真作品 『婦人帽子屋』 原題 " Milliner
" from the Photo book " En Detail - Alte Wiener
Laden ". Photo by Petra Rainer 文 柳澤
徹