古今東西を巡る総合芸術表現シリーズ 世界芸術列伝 第123話 2004/03/03公開 |
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洋服屋 天使ケルビムと人類/第九とエヴァンゲリオン |
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■ ひとはもともと、楽園に住んでいたらしいことを、ご存知であろう... 続き/Page
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(C) ペトラ・レイナー 写真集
「ウィーンの古い小売商店」 より 洋服屋
オーストリアの写真家 |
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旧約聖書によれば、約束を破ったので、それまでいた幸せな、神の楽園を追放されたとされている。
また、そのとき神は、楽園(エデン)の東の門に、剣と、天使ケルビムを配して、戻れないようにしたという。
15世紀イタリア・ルネッサンス期の画家、マサッチオが、その様子をフレスコ画に描いている。 ひとの感情の深淵を、表現しているかの絵である... 続き/Page
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トンマーゾ・ジョヴァンニ・ディ・モーネ・マサッチョ (1401-1428)
(アダムとエヴァの)楽園追放
フレスコ 65×81cm 1427年ころ
サンタマリア・デル・カルミネ修道院 (イタリア・フィレンツェ)
イタリア・ルネサンス
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さて、18世紀後半の詩人、シラー(1759-1805)は、詩『歓喜に寄せる』を書く。 ひとまわりほど年下の作曲家ベートーヴェンは、この詩に強く感銘を受ける。
ベートーヴェンは、いつかはこの詩を組み込んだ作品をつくろうと、若いころから、構想を温めていた。 そしてついに、自身の最後のシンフォニーで、それを結実させることに、成功したのだった。
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ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)作曲
交響曲 第9番 ニ短調 作品125 合唱
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作曲時期:
1822-1824年 初演: 1824年 オーストリア・ウィーン |
リンク先:
You Tube |
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筆者は、合唱歌手として、数え切れないほどの練習と、8回のステージで、その『第九』を歌ったが、今回、歌詞の日本語への意訳を試みてみた。
ここに登場するドイツ語の単語の意味は承知ではあるが、この訳は、演奏する内側にいて、その響きをじかに体感した者が、ベートーヴェンの想うところを、察してみたもので、言葉どおりのものではない。
また、歌詞の順番も並べ替えている。 ちなみに、3段目の歌詞のところが、バリトン独唱者が立ち上がって、最初に歌いだすところである。
ベートーヴェン
交響曲第九番 第4楽章
フリードリヒ・シラー原詩 『歓喜の歌』 抜粋
原語 |
筆者による意訳 |
Freude trinken alle Wesen
an den Brusten der Natur;
Alle Guten, alle Bosen Folgen
ihrer Rosenspur. |
善い者であっても、悪い者であっても、すべての生きものは、自然からの恵みによって生かされている。 |
Kusse gab sie uns und Reben,
einen Freund, geprufut im
Tod; Wollust ward dem Wurm
gegeben, und der Cherub steht
vor Gott ! |
天使ケルビムが、あなた(神)の前に立ちはだかっていた間、自然は、私たちに親愛と恵みと快楽を与えてくれて、はるかな世代を重ねるうちに、数え切れないほどの同胞を得た。 |
O Freunde, nicht diese Tone
!
sondern last uns angenehmere
anstimmen, und freudenvollere.
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しかし、同胞の諸君よ、このような身の回りの幸せではなく、もっと感動的な喜びに、満たされようではないか。 |
Freude, schoner Gotterfunken,
Tochter aus Elysium, Wir betreten
feuertrunken, Himmlische,
dein Heiligtum !
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それは、神の光と楽園の甘美に包まれた喜びだ。 私たちは、今、熱情とともに、あなた(神)の聖地へと入っていこう。 |
Deine Zauber binden wieder,
Was die Mode streng geteilt,
Alle Menschen werden Bruder,
Wo dein sanfter Flugel weilt.
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あなた(神)の魔法のような力があれば、はるかな時間、厳格に隔てられていたものたちが、再びひとつになれるだろう。 そして、すべてのひとも、あなた(神)のやさしい翼のもとで、ひとつのものとなるのだ。 |
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ところで、1995年からテレビ放映された人気アニメ 『新世紀エヴァンゲリオン』をご存知だろうか? 文化人も注目したので、ふだんアニメをみない層もみるという社会現象になった。 また、第1回
文化庁メディア芸術祭では、アニメーション部門 優秀賞を受賞した。
もし、劇場版の続編を含めてエヴァンゲリオンをご覧になった方がおられれば、日本人なら誰もが知り、年末になると耳にする第九にて謳いあげられる思想が、その物語のバックボーンに含まれていることに、気づかれることと思う。
第十七使徒の渚カヲルが登場する 第弐拾四話『最後のシ者』の後半では、第九のこの歌詞を含む部分が、その謎めいた物語を解きあかすものとして、演奏された。
登場する複雑なキャラクターの構図を、もし、大きく捉えてみるならば、
神と思われたものとの接触を試みる使徒(シト)は、シラー
主人公 碇シンジの父親ゲンドウは、ベートーヴェン
人型決戦兵器だが、実は人造人間であったエヴァ・シリーズは、天使ケルビム
ということになるであろう。
さて、神は、アダムとエヴァを楽園から追放したとき、皮の衣(ころも)を与えたという。 ひとが服を着るようになったのは、それから...らしい。
写真作品 『洋服屋』 原題 " Clothes " from the
Photo book " En Detail - Alte Wiener Laden ". Photo
by Petra Rainer 文 柳澤
徹 |