古今東西を巡る総合芸術表現シリーズ 世界芸術列伝 第167話 2005/08/19公開 |
|
|
■ 手前のほうにあるものは、遠くのほうにあるものより、大きく見えるという、光学の法則がある。
3次元空間における、この法則を、絵画など2次元の平面上の表現に応用する手法を、遠近法という。 14世紀からはじまったルネサンス運動において研究が重ねられ、15世紀になってから、イタリア・フィレンツェにて、手法として確立された。
遠近法を、美術の大成果に押し上げた、この時代の巨匠には、アンドレーア・マンテーニャ、
マサッチョ、
レオナルド・ダ・ヴィンチが、挙げられよう。
このように、現実世界の事物に対して、それを突き動かす法則性を、懸命に見出そうとする姿勢があったことは、文化の諸領域において展開された、ルネサンス運動の特徴のひとつでもあった。
例えば、古代ギリシアの医師 ヒポクラテスの著書が翻訳されたことにより喚起された関心は、人々に、人体そのものが観察すべき重要な対象であることを、気づかせることになった。 そして、人体の構成やその内部の動きの法則性への探求が開始され、近代医学の基礎をもが築かれることになった。
また、古来より関心が持たれていたことに天体の動きがあるが、その法則性を見出そうとする意図のもとで観察したポーランド人のコペルニクス、イタリア人のガリレイ、ドイツ人のケプラーらによって、地動説が提示され、確からしいものとされる運びへともなった。
この過程で耕された物理的現象への考察は、ルネサンス以後の17世紀に、イギリス人ニュートンによって、科学分野に本格的な革命を起こすことに到る。
ひとの創造力とは、尽きることなく、事象を前進させようするものだ。 ルネサンス期に確立された遠近法であるが、18世紀のある芸術家は、絵に新たな要素を加えいれて、それとの相乗効果の醸成に成功したようだ。
画家ベルナルド・ベロット。 都市景観図、特にヴェネツィアの風景の優れた描き手として知られる 画家カナレットの甥にもあたる。 20代後半に故国イタリアを離れ、以降、ドレスデン、ウィーン、ワルシャワなど北ヨーロッパの都市にて活躍した。 そのとても大きなキャンバスに描かれた作品たちは、前に立つひとを、一瞬にして、風景世界へとトリップさせる。
もし、宜しいようであったら、モニター画面10cm程度にまで顔を寄せて観てほしい。 それが、実際に絵の前に立つのと同じくらいの間合いとなるのだ。 画家は、その位置から鑑賞されるときに、最大効果が得られるように、「線遠近法」に感覚的な微調整を加えているようだ。 細部まで繊細に表現された、眼前に広がる風景世界へと、溶け込んでいくような臨場感を、試すことができるかもしれない... 続き/Page
Up
いかがだったろうか? 低く美しい太陽に包まれている街角。 通りでは、人々が行き交い、あるひとたちは知人と はつらつと語らう。 広場のほうからは、馬車も走ってくる。 市民がそれぞれ、自由でなんとも活発な活動をしているようではないか!
そう、先ほど述べた、画家が遠近法で描かれる絵画に加えた新たな要素とは、この地で生活する人々の活動や息吹、情報のやりとり、つまり、そこで展開される、さまざまな「フロー」なのである。 (綿密に描かれた建築物たちは、「ストック」であると考えたなら、より興味深い)
絵画において、作者が認識または理解していないことが、描き出されることはあまりない。 この点、画家ベロットは、都市が発揮する、フローというものこそが、自分がいる社会の活力や発展、そして繁栄ということに、大きな意味があることを、確かに理解していた芸術家のひとりであったのである。
2005/2006年は、日本におけるドイツ年として、さまざまな催しが展開されいる。 その一環として、ドレスデン国立美術館のコレクション
約200点が、日本にやって来ている。
ベロットの大作が、7点も鑑賞することができる。 百聞は一見にしかずとも言うが、もし、お時間等が都合の宜しい方は、実際にこれら大きな絵の前に立って、18世紀へのタイムトリップを楽しんでみては、いかがだろうか?
さて、冒頭からお話ししてきた遠近法であるが、こちらは、日本の古都・京都を流れる保津川(大堰川)の嵐山付近である。 石にて護岸された土手の上から撮影した。 画面奥へと続く土手の上は、遊歩道になっており、ひとが憩い、ハトも集う。
その先に架かっているのは、有名な渡月橋(とげつきょう)だ。 ここにはじめて橋が架けられた時期は、平安時代にも遡るという。 1932年(昭和7年)の洪水で流された以降は、コンクリート造りとなった。 現代は、人々や自動車が、ゆったりと行き交う... 続き/Page
Up
橋の向こうのほうに見えるのが、嵐山だ。 山すそから、山頂のほうへ目をやるほど、そこは撮影した場所からの距離が長くなり、存在する大気の厚みが増すことになる。 そのため、空の色がそうであるように、やや青みがかかり、また、すこしかすんで見える。 このことを、絵画表現に応用する手法を、「空気遠近法」という。
先般、打ち上げられ、見事、無事の帰還を果たした、スペースシャトル・ディスカバリー号のフライトでは、宇宙における船外活動で、日本人飛行士が、のびのびと大活躍した。
宇宙から届いた船外活動の映像は、なかなか鮮明だったが、その一方で、地球、船、飛行士の位置関係が、明確には分からなかった方も、あるいは、おられたのではないだろうか?
それは、地球上で暮らすわたしたちが、日常的な感覚として使用している、遠近法的視界とは、すこし異なっていたからであろう。
地上では、視界に上と下があるが、宇宙空間で、無重力状態であるときには、上も下もはっきりしない。 また、遠くにあるもののほうが、近くのものより小さくは見えるのではあるが、大気層がないため、かすんだりも、しないのである。
■ 追伸 2005/08/24 東京・秋葉原と
茨城県つくば市を、最速45分で結ぶ「つくばエクスプレス」 開業おめでとうございます!
西日本と東日本を結ぶ基点 東京駅は産業の香り、東北とつながる上野駅は文化の香り。 そして、世界に冠たる科学技術/オタク文化の香りする
この新たなストックが、絶妙のフローをじわりと育み、社会をまたひとつ良くしていくことを、期待いたします。
時代が求める潮流、とりまくシチュエーションや位置は異なるものの、どこか
東海道新幹線開業や、大阪万博開催が連想されてきます。