古今東西を巡る総合芸術表現シリーズ 世界芸術列伝 第181話 2006/08/04公開 |
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画家 ルネ・マグリット シュルレアリスム・超現実主義について |
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■ 「感動のあまり、鳥肌が立った」 そんな文章を、しばしば目にするようにもなると、時流というものの変化を感じる方も、多いかとも思うが、実際のところ、ひとは、えもいわれぬ素晴らしい体験をした折などに、その交感神経の働きによって「鳥肌が立ったりする」のだから、これは、状態を表すのに、リアリズム(写実)を用いているのであるなと理解ができる。
すこし美術の歴史を知るひとにとっては、このことに類似するようでもあり、また、どこか狐につままれたような感じを覚える言葉は、「シュールな」という形容だ。
たとえば、「現実のものとは思えない。 だけど、アーティスティックな」光景と、たまたま遭遇したときなどに、「シュッ! シュールだ...」という風に使われたりする。
今日は、このことを発句として、20世紀の20年代の半ばから50〜60年代くらいにかけて展開された芸術運動 「シュルレアリスム(超現実主義)」について、触れてみたいと思う。
マックス・エルンスト(1891-1976)、サルバドール・ダリ(1904-1989)、ジョルジョ・デ・キリコ(1888-1978)、マン・レイ(1890-1976)、アルベルト・ジャコメッティ(1901-1966)...これら芸術家の名を聞いて、その作品たちを思い浮かべたならば、シュルレアリスムという芸術ジャンルは、どんなものかを、おおむねイメージすることができるだろう。
だが、これまで歴史に刻まれてきた多くの芸術運動と同様に、その詳細に入ろうとしたならば、「シュルレアリストの数だけ、シュルレアリスムがある」ということにも、気がつくことにもなるが、まあ、そうであってこそ、後世のわたしたちにとっての、学習することや、想像力を使って関連付けを行ったりする知的な楽しみが、幾多と遺されているというものだ。
さて、上記のリンクから画像を参照できるのは、シュルレアリスム運動の中心的人物のひとり 画家 ルネ・マグリットの作品である。
三次元にある対象を、二次元の平面上に、正確に描き出すに十二分の技量を持ち、誰もが身近に知るようなありふれたものたちを、誰もが想像したことがないような組み合わせや配列をもってして描き出し、人類にとっての深遠なる意味といったものを具現化するのを、得意とした。
この作品では、上空ほど漆黒になるという奇妙な天候の、波打ち寄せる海岸が舞台である。 海の水平線の彼方からは、さっそうともするような両翼を広げたハトのシルエットが湧き上がっているが、それは考えられないような巨大な大きさだ。 そして、そのシルエットの内側には、晴れた空が広がっていて、そこでは、雲たちがなごやかに浮いている。
思いもかけることのできない光景ではあるのだが、作品が生成している結果的なメッセージは明快である。 普段の生活においてそのことを、さして意識はしていないものだが、わたしたちが現実世界において、その恩恵を享受し、そして今後もし続けたいと願う
「平和」がそれである。
マグリットのこの作品の場合からも伺えるように、シュルレアリスム・超現実主義とは、なにも現実にはあり得ないものを、リアルに描いてみせることを目的としているわけではない。
ひととは、日常を送るうちに、いつの間にか因習へと埋没していきがちなものであるが、それが自身の現実であると認識してしまいつつあるところに、現実とは思えないような光景を提示しながら、より根本的だったり、より根源的だったりする現実(それすなわち超現実)を、思い起こさせたり、感じさせたりすることに、その表現の目的があるのである。
さて、気候がよくなってくると、コットンの肌触りに心地よさを覚える日がある。
陽光が適度であれば、その湿り気を飛ばし、風がそよぐならば、なおよいものだ。
そんな日には、むくむくと生まれては、その形を変え、消えいるかと思えば、どこぞから湧き立ちつつ、はるか高い空をかける風に、遊ぶがことくの雲たちを、のぞめることがある。
ひとの想像力を押し上げるほどに速い、それら雲たちの変容は、その過程のいろいろな瞬間に、さまざまなものを提示する。
「あ!うさぎさん。 あっちには、ぞうさん!」 幼き日などを振り返ってみたならば、おそらくは大方のひとが、そうやって時間を楽しんだ経験が、おありであろう。
先般、そのような幸運な日と遭遇した。 陽の香りを大きく吸い込みながら、飽くことのなく変化する空を、眺めていた。
しばらくして、写真機かあることを思い出したので、そのレンズを仰角に掲げ、瞬間の記録をはじめた。
やがて、青き空のなびく薄雲の間隙から生まれ、巨大に成長したものがあった。 おお! これは、アフロディーテの誕生であろうか! Page
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(C)
柳澤 徹 『湧き立つ雲
- アフロディーテの誕生』
写真 2006年 |
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