古今東西を巡る総合芸術表現シリーズ 世界芸術列伝 第168話 2005/09/09公開 |
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■ 2005年、広く人類は、新たなる知覚を手にした。
それは、グーグル・アース。 ブロードバンドにてインターネット接続された、一定以上の性能を有すパソコン上で、美しく動作する、「3次元地図ソフトウェア」のことである。
検索エンジン大手グーグルが提供するもので、いつでも好きなだけ、無料でサービスを利用できる。 その3D地図が網羅する範囲、それは文字通り、地球のすべての地域だ。
IT革命たけなわの 1999年に公開された映画、『マトリックス』は、覚えておられるだろうか?
パソコンの家庭・個人への普及が進み、実生活シーンでのインターネット利用が、本格化していった時期にぴったりした ストーリーの面白さもさることながら、飛んでくる弾丸を避けるため、身体のほとんどを、大きく後ろへ反らした状態にあるキアヌ・リーヴスを、周囲を360度回りながら撮影したように見える、実写は不可能であるはずの、斬新な映像表現でも
話題になった。
コンピューターに、キアヌの形をした3次元立体を取り込み、それに複数の写真を貼り付けてできたものを、ぐるりと回転させて、この映像表現は生みだされた。 まったくゼロの状態から、例えば、ティラノザウルスの形を構築し、色を塗り、リアルな質感を与えて、3次元CGをつくりあげるよりも、はるかに手軽な方法だ。
グーグル・アースには、この画期的な技術が、応用されている。
わたしたちの住む、この地球の、精密な3次元モデルを生成した上で、そこに、宇宙にある衛星から撮影した写真を貼り付けてできているのだ。 それゆえ、この3D地図ソフトが描画する、地球のいかなる場所でも、回転させることも、見る角度を変えることも、ズームインすることも可能なのだ。
グーグル・アースの使い方
インストールが完了した、グーグル・アースを起動すると、漆黒の宇宙に浮かぶ、地球が描画される。 大気層の厚みで、地球の周囲は青く輝いている。 人類でも、まだわずかなひとしか見たことのない視点からの眺めに、相当するものだ。
まもなく、グーグル・アースは、自動で すこし地球のほうへズームインする。 3Dグラフィックの動きはスムーズで、感動的なほどまでに
美しい。
コンソールのボタンを操作しても良し、また、画面をマウスでつかんでも良し、ご自身の意思で、3D画像を、自由に動かしていただける。 このソフトが、いかに優れているものかの予感が、生まれてくるだろう。
多くの方が、まず見てみたいのは、わたしたちの住む日本だと思う。 日本列島を発見したら、ダブルクリックしてみよう。 日本が大きく表示される。 さらにもう一度、ダブルクリックすると、地上から1キロ・メートルあたりの高さまで、めくるめく感じでズームインする。
表示されたのが、首都圏であったなら、特に精密な写真が用意されているので、線路を走る電車や、高速道路上の乗用車まで見える。 このソフトの質の高さが、認識されてくることだろう。
もし、こちらにお住まいか、お勤めの方であったなら、ご自宅や勤務先の衛星写真を見ることができる。 だいたいの土地勘をたどって、ほぼそれらしいものを見つけたときには、感動と、一種の満足感を得ることだろう。
なお、東京の町並みが示すある特徴を、時系列的に覚えている、筆者の記憶と照らし合わせたところ、2005年9月現在、グーグル・アースにて使用されている
東京の衛星写真は、1998年かその前年あたりのものであるようだ。 映画『マトリックス』が、制作中であったころにもあたる... 続き/Page
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(C) 柳澤 徹 東京・新宿 2005・8 #1
西口の高層ビルから東を臨む 色とりどりも また楽しげだ 写真
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検索エンジンから はじめて来られた方へ
: これは当Web美術館のオリジナル・コンテンツのひとつとして掲載しているアート作品である。 グーグル・アースの動作イメージでも、その性能を示唆するものでもない。 |
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グーグル・アースの楽しみ方
グーグル・アースを体験した方の内、ある程度の割合のひとたちは、自宅や勤務先を見つけて満足し、このソフトに、もっとすごい楽しみ方があることを知ることなく、忘却するかもしれない。
だが、Webミュージアム「とおる美術館」の本ページが、口コミやリンク、その他の方法にて広まり、多くの方々が、その楽しみを知ったならば、グーグル・アース人気は
より高まることだろう。 サーバーへの日本からのアクセスが増加し、接続しにくくなるという、かすかな危惧も抱かないでもないが、グーグルの資本力と技術を信頼して、ご紹介してしまおう。
映画『マトリックス』にて使われた、映像技術のことを、もう一度、思い出してほしい。 グーグル・アースは、3D地図ソフトであり、地上を真上から見るだけではなく、その見る角度を、ユーザーが自由に変えられることを。
ナビゲーション・ボタンを操作して、地平線が視界に入るように、地面を倒していただきたい。 そして、このとき、空が描画される領域が、画面の20%程度を占めるようにしておくのが良い。 これは、芸術家が発見した「奥義(おうぎ)
その1」である。
おお、ダイナミックさを強く感じさせる、遠近法的視界が開けてくるではないか。 空気遠近法も適用されていて、遠くのほうは、かすんで表現されている。
これで、あなたは、ヘリコプターかセスナ機、あるいは、大気中では あり得ないほどの高速飛行が可能な ジェット機に搭乗したかの視野を、手に入れたことになるのである!
まずは、その場で、周回してみよう。 もし今いる場所が、首都圏であったなら、日本一の山、富士山が視界に入ってくるので、そこを目指して飛んで行ってみよう。 (富士山が視界に入らない場合は、すこし浮上してみましょう。 また、ほかの地域をご覧になられていた方は、富士山を見つけて移動してみましょう)
すばらしい 飛行体験と共に、富士山へと到着したら、頂上付近の高度、およそ12,400フィートくらいの高さへと位置し、「奥義
その1」を思い出して、ふたたび、視界に空が 20%程度入るように調整しよう。
ブロードバンド環境で動作する グーグル・アースにおいて、富士山ほどの高さからの眺めが、芸術的な美しさと、ダイナミックな印象を
あわせ持ち、また、飛行をした時の景観の変化も富んだものになる。 これは、筆者が発見した「奥義 その2」である。
そして、富士山にでもなったような 大きな気持ち(照笑)で、好きな方角へと、自由に飛びだして、次々と出現してくる、なだらかな山々の緑が織り成す、美しい風景を、じっくりと
大いに楽しもう。
(なお、風景を楽しむというわけにはいかないが、最高速をだしたなら、北海道へも、九州へも、富士山から、5秒程度で到達することが可能である)
こうして、日本を十分楽しんだら、次は世界だ。 日本のどこにいても良い、方角を西にさえとれば、海を越えて、ユーラシア大陸へ到達する。
進んでいくと、日本とは 異なる景観が、次々と登場してくることに驚かされ、また、新鮮な気分にもなる。
この刺激から、あらためて感じてくるのは、日本で、わたしたちが慣れ親しんでいる風景とは、「日本独自」のものであるということだ。
毎年、夏から秋にかけて、台風が何度もやってくる日本は、その7割が山地であるが、日本アルプスなどの一部の地域を除いて、それは、すでに、おおむね
なだらかだ。 そして、よくぞここまで細かく丁寧に、そして しっとりとして、感性的なという印象さえ受ける感じで、風雨による侵食が進んでいるという特徴にも、気がつく。
韓国を見てまわっても、すこし異なった景観である。 島である台湾においても、またしかり。 中国となると、かなりの差異がある。 さらに、西へと進んだならば、まったく異なる風景となり、日本的な風景は、二度と出現することはない。
このような差異を見て取れることで、大地のプレート・テクニクス上の成り立ちや、風雨など気候のありようが、景観形成ということに、密接に関係していることが、感覚的にも理解されてくる。
国境線がなく、地上を撮影した写真にて構成されている 3D地図、グーグル・アース。 このソフトの本質は、わたしたちの住む地球を
視覚体験的に知覚できる、究極の客観データであるということだ。
これに親しむ過程で、わたしたちが、地域の歴史や文化に関して すでに持っている、どちらかというと主観的な知識と、描画される景観から
新たに得る、かなり客観的な知識との、すり合わせをすることができる。 そして、視野が広くもバランスのとれた、より本質的な思考の仕方へと、近づけるかもしれない。
(もし、読んだことのおありの方なら、大正・昭和期の哲学者、和辻哲郎(1889-1960)の、1935年の著書『風土』の世界を、追体験することも可能だろう)
なお、人類の歴史という観点からは、次のことが重要になってくる。
このソフトは、通信・PCの環境が整っていさえすれば、世界の誰でもが、好きなだけ利用できるということだ。 かつて、このような時代はなかった。 筆者は、この同時代的な集団体験が、やがて、何かゆるやかなものではあるだろうが、新たな思潮さえ、生じさせるのではないかと予感している。 それは、どちらかといえば、コスモポリタン的な発想のものに
なるのかもしれない。
さて、これらのことも さることながら、とにかく良くできたソフトである。
先般は、世界最高峰、エベレストの登頂を 楽しんだ。 裾野のほうから、広々とした氷河を、どんどんと駆け上がって、頂上を目指すのだ。 「そこに山があるから」との名言を残した、登山家
ジョージ・リー・マロリー (1886-1924)の気分だ。 所用時間は 30分であった。
また、昨日は、エジプトを周遊した。 ナイル川流域を巡ったあと、緑色をした三角州の西側に接する砂漠地帯にて、ギーザのピラミッド群を発見した。 紀元前26世紀以前につくられた
大スフィンクスもあった。
古代エジプト象形文字・ヒエログリフの解読に成功し、ルーヴル美術館のエジプト部門をつくった、ジャン・フランソワ・シャンポリオン
(1790-1832) の夢と熱情を、思い起こさせる。 こちらもおよそ、30分の旅であった。
さあ、今日は、これから、どにを、見てこようかな?