古今東西を巡る総合芸術表現シリーズ 世界芸術列伝 第152話 2004/12/10公開 |
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■ 来年の話をすると、鬼が笑うという。
未来へ旅ができるタイムマシンは、まだ発明されていないようでもあるし、確かに、先のことは分からない。 だが、これまで起きたことを参考にしながら、たとえ漠然とでも、中長期的なイメージを持つことは、多くのひとが本能的に行うことだろうし、強い関心が集まる事柄だ。
さて今日は、来年どころか、ずいぶん先、2009年のお話。 なんと、ルーヴル美術館の「分館」ができるのだ!
ルーヴル美術館と言えば、誰もが知る、フランスの美術館。 パリにある。
建物は元々、王の宮殿だった。 人権宣言が成されたことで有名な、18世紀終盤に起きたフランス革命(1789-99)の進行中、民衆を鼓舞する意味もあったのだろう、王宮コレクションを、展示公開したことに、美術館としての発祥を持つ。
当初、管理委員会によって運営されたが、その委員長に指名されたのが、画家のダヴィッドだった... 続き/Page
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ジャック・ルイ・ダヴィッド (1748-1825) レカミエ夫人
油彩 174×244cm 1800年 ルーヴル美術館
(仏国) 所蔵
フランス新古典主義 |
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気品のある画風である。 心地良い褐色を基調色にした広い空間に、簡素ながら念の入った長椅子が置いてあり、室内着の女性が半身を起こして、こちらを見ている。 その眼差しには、気取りはなく、また、描かれることに対して、信頼感を寄せているようである。
(この長椅子、乗っかるための踏み台が、右手前のところにある。 また、足を置く辺りのクッションは、盛り上がっており、健康に配慮した造りになっている。 何世紀も前の造作だが、念の入った仕事だ)
画家ダヴィッドは、この写実的かつ明快な描写力を持って、フランスに新古典主義を打ち立てた。 また、のちのロマン主義が隆盛してくる予兆をも、かもし出した... 続き/Page
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ジャック・ルイ・ダヴィッド サン・ベルナール峠を越えるボナパルト
油彩 260×221cm 1800-01年
マルメゾン城国立美術館 (仏国) 所蔵 |
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革命進行中のフランスでは、外国軍の侵攻や、国内暴動など、穏やかな状況ではなかった。 はじめ一将校だったナポレオンは、防衛戦において活躍が目覚しく、やがて将軍に任命される。 そして、ルーヴルが民衆に開かれたのと同じ1793年、外国軍を一掃、国内暴動も鎮圧したのだった。
いななく逞しい白馬に、軽妙にまたがり、自らの意思と、進む道を指し示している。 この絵に描かれている覇気には、何か憧れのようなものを抱く方も、多いのではないだろうか?
そう、そんな感情の励起こそが、やがてはロマン主義の流れを、熟成していくことになるのである。
さて、2009年、ルーヴル美術館の分館ができるのは、パリから北へ100km、人口3万5千人の「ランス(Lens)」という町である。 パリの西140kmにあり、人口が5倍、シャンパンや大聖堂で知られているランス(Reims)とは、また別の町。
1998年 サッカー・ワールドカップ・フランス大会では、会場のひとつにもなったことはあったが、町には映画館もなく、最も大きな書店でも、ルーブルに関する本は1冊しか置いていないという。
だが、高速鉄道TGVは、停車するのだ。 なぜか?
それは、かつてこの町が、重要な石炭産業の町だったからだ。 フランスと言えば、原子力発電に注力し、近隣国へ電気を輸出していることが有名だが、どの先進国でも、かつて近代化の時代、石炭が主要なエネルギー源であった。
ルーヴルの分館ができることは、この地で、国策的な目的に、自らの精力をつぎ込んだ、幾多のひとたちの努力と、誇りにも報いる朗報だ。
なお、移転するのは 600点だが、ルーヴル本体と同等の質のものを、考えているそうだ。 モナ・リザや、サモトラケのニケも、その候補だという。 それほどのコンテンツであれば、パリから鉄道で1時間、近隣国からの便も良いこの地域を、大いに活性化することだろう。
わたしたち日本人にとっても、一生に一度は観たい名所が、ひとつ増えることになる。
■ 追伸 トルコのカッパドキア。 その名を聞けば、奇石が立ち並んでいる風景を、思い起こされる方も多いことだろう。
そんな神秘的な光景に魅せられ、4世紀には、キリスト教徒たちが移住してきた。 だが、6〜7世紀になると、アラブ人による迫害を受けたため、岩盤を地中深く掘り、巨大地下都市を構築。 ルーヴルの分館ができるランスの人口くらいのひとたちが隠れ、信仰生活をしていたという。
地下都市は、ガイドの案内により見学ができる。 多々ある住居内は、そこそこの広さがあるのだが、頭をぶつける方がいるほど、通路のほうは狭い。
撮影した写真は、ドイツ表現主義のエミール・ノルデ(1867-1956)や、パウル・クレー(1879-1940)にも影響を与えた、オランダの特異な画家、ジェームズ・アンソール(1860-1949)のような雰囲気になった... Page
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(C) 柳澤 徹 トルコ 2000・11 #4 写真
カッパドキア地方 カイマクル地下都市にて 住居跡の様子 |
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