腰に手をあて、片手をあげ、若干胴をひねる...ひとがとるポーズとしては、気張らない姿勢だが、わりと素朴で自然な感じが、あたかもそこに居合わせたかの情感を、あなたに伝えることとも、なってはいないだろうか?
さて、時代は19世紀末。 場所は、フランス・パリ。 ガス燈の光は、部分的に夜を照らす。 石造りの街には、ひとびとが行き交い、賑わいの表情を見せる。 印象派の画家たちも、その才気を放つ。
そんな具合のところにやってきたのが、画家 トゥールーズ・ロートレック。
年長のエドガー・ドガの、卓越したデッサン力に裏打ちされた、対象と空間の表現力。 柔らかく、渦を巻くようなポール・ゴーギャンの色彩感覚。 そして、欧州が観たことのなかった斬新な絵画構図を持ち、驚くべき「線」の扱い方をする、日本から伝わってきた浮世絵美術
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モンマルトルを舞台にして、ロートレックは、これらを融合し、きわめて独自な絵画世界を創りあげたのだった。
伸びやかに、そして鋭くデフォルメを施したポスターにおいても、ガシッと写実で描いた絵画においても、いつもそこには、画家が目撃し感じ取った、対象の本質へと迫るものがある。 その信頼するべき直観力にて、対象は内面をもが把握され、力強さと軽妙さをあわせ持った表現力によって描かれた絵は、もしかすると写真よりも、ひとの真の姿を映しているのではないかとも思えてくる。 それが、ロートレック芸術の特質である... 続き/Page
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アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック (1864-1901) ストッキングをはく女
カードボードに油彩 58×48cm 1894年 オルセー美術館
(仏国) 所蔵
フランス後期印象派 |
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直観、そして、輪郭線をたくみに使用した描写力。 多色を用いながらもバランスが良く、スッキリとした印象さえ与える色彩感覚。 ロートレック芸術が持つ、すばらしさが、この裸婦画の中にも凝縮されている。
その、絵画としての端的な成果は、観るわたしたちに、ある率直な印象を持たせることでも、明らかになっているだろう。 そのある印象とは、「まるで、この光景に居合わせたかのようだ」
ということである。
さて、ところで、21世紀最初の年に公開された、映画 『ムーラン・ルージュ』は、ご覧になられただろうか?
『スター・ウォーズ』で、若き日のオビ・ワン・ケノービを演じたユアン・マクレガー、『アイズ・ワイド・シャット』のニコール・キッドマンが歌う、ポピュラーソングの名曲たちが、ひとの気持ちの流れに、カッチリとマッチする、感動のミュージカル映画だ。
舞台は、19世紀末、フランス・パリの豪華な酒場、ムーラン・ルージュ。 ロートレックが、才気溢れる仕事を、生き生きと行った場所でもある。 映画の中で画家は、恋と愛の価値を讃えてテーマに厚みをもたらし、ストーリーをリードする芸術家として、活躍する。