古今東西を巡る総合芸術表現シリーズ 世界芸術列伝 第163話 2005/06/10公開 |
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■ 春信の絵は、昔から好きだ。
どこがいいかというと、まずは「線」だ。 独特の柔らかいものだ。
そして、色彩だ。 アクセント的に、朱色が使用される作品も多くあるが、うすい色の緑、だいだい、黄、茶など中間色(原色の反対語)のみで制作されることもある。
春信が活躍した18世紀後半には、のちの19世紀、例えば 葛飾北斎の絵で使用されたような、多色刷の木版画用に大量に使う、青色絵具がなかったこともあろう。 青抜きでの、色面構成を試行するうちに、独特の美しさを持つ色使いが、出来上がったようだ。
これら、絵画的要素の元に、品良く描きだされる春信の人物や景色には、どこか、ほっとさせるものがある。 時間をかけて、眺めていたくなる。 そうやって、安心して観ていると、不思議なことに、あれこれ自然と、想像も湧いてくる... 続き/Page
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鈴木春信 (1725頃-1770) 柳の川岸
1765-70頃 中判錦絵
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錦絵とは、18世紀に誕生した、木版多色刷版画。 中判というと、おおむね28×20cm程度の大きさ。 |
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同じくらいの年の娘が、ふたり描かれている。 ひとりは岸辺に、ひとりは船の前のほうに。
岸の娘が、閉じたばかりと思われる傘を、手にしていることから、雨上がりらしい。 柳の枝もあることから、6月頃か、夏にかけてくらいの季節だろう。
船は今、岸辺に着いたところだ。 「松(待つ)」の絵柄の着物の岸の娘は、手招きをし、どこかに、いざなっているらしい。
船の娘は、ぞうりを履いてなく、どうやら着替えの最中だったようだ。 よく観ると、船の中では男性が、衣服を入れる長持(ながもち)を抱えている。 ふむ、船中で着替えて、これからどこへ行くのだろうか?
...画面にも表れている、絵師のやわらかな心持は、観ているものの想像の翼を、時間と共に、心地よく広げていってくれる。 はっきりとは判らない点が、残ったとしても、こうした体験をさせてくれる内容こそが、春信芸術の、独自性なのだろう。
そして、根に素直さもある、この芸術が誕生し、好まれ、支持されたのには、平和な世が背景にあったことだろうと想像しても、また楽しくなるものだ... 続き/Page
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(C) 柳澤 徹 京都 2005・3 #1 嵐山・桂川の屋形船 写真
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嵯峨野方面からやってきて、嵐山の渡月橋(とげつきょう)を渡った先の辺りから、船着場が見えた。 遠くまで見渡せる、広々とした川の岸に、うすい緑や黄など中間色で彩色された船が、係留されている。
18世紀版画の世界で、よい青色絵具がなかったように、このデザインが定着したころ、船体へと大量に塗る青も、存在しなかったのかもしれない。
長い時間を通して、文化を継承してきたことが、結果として、地域のブランド価値を高めることになった京都。 春信が描いたタイプの屋形船が、そこにあり、今も使われている。
風景からの発見は、楽しい。 |