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高橋 由一 (1828-1894)
鮭図 1879-80年 油彩 板
幕末〜明治 日本の近代絵画 |
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木の板の上に、鮭が、驚くべき写実性をもって、描かれている。 鮭の形態、その色彩、そして、柔らかな光のもとに生まれている陰影... これらに加えての、すごさは、魚ならではの質感が、油絵の具にて、克明に描き込まれていることだ。
油絵の具とは、顔料が、油に溶かれてできている。
描くときには、容器(チューブ)から出したものに、描画用の油を加え、筆運びしやすい状態にして使う。 この加える描画用油(溶き油)の種類によって異なるが、数時間や数日といった、ゆっくりとしたペースで、空気中の酸素と結合して(酸化して)固まっていく。
一般的に、塗った絵の具は、時間の経過と共に、「乾く」と言う。 水で溶く 水彩絵の具の場合は、かなり近い形容となるが、油絵の具の場合、「乾く」というより、「固まる」というのが、その実態に近い。
固まった油であるので、必然的に、なにがしかの厚みを持つわけだが、このことが、たいへん重要な役割をすることになる。
というのは、目には見えないほどの細かさの顔料は、油の層の中に散り、浮かんだ状態で固まっているので、絵に当たった光は、油の層の中で、顔料のつぶに当たりながら乱反射をして、観るわたしたちのほうへと戻ってくる。
半透明の宝石がそうであるのとも、似たような原理で、油絵とは、独特の美しさを、発揮することになるのである。
油絵の具を、何度も塗り重ねて描いたであろう 由一の作品を観ていると、20世紀の少年が、はじめて手にしたグローブで野球に、あるいは、わたしたちがはじめて買ったパソコンや携帯電話に、夢中になったように、手に入れた新しい道具の「特性」に沿って、がっぷりとした時間と共に、じっくりと腰を据えた作画をしていったことだろうと、想像するのは難くない。
そして、それが特級の技量を伴っていたこともさることながら、作品から伝わってくる画家の制作姿勢は、実に真摯で、また、素朴としたものであったことが、伺われてくる。
この特質は、明治初期における、日本の美術史上に揺るがない、高橋由一の重要性を支える「心情的な柱」だと、推察される。 それは、全員とは言えないかもしれないが、作品を鑑賞するひとたちに、ある強い感情を、湧き起こさせるからだ。
「 わたしも、油絵というものを、描いてみたい!」
さて、高橋由一が、絵の題材にした『鮭』であるが、こちらは、その主要な産地、雪の積もった北海道である。 風景は、網走の駅の近くで発見した。 きりりっとした空気の中、青い空を大海にするがごとく、その姿は、美しいヴォリュームを放っていた。
カメラを持つ手が自然と向いたのは、明治初期の洋画における、すばらしき開拓者について書く機会が、やがてあるだろうと思ったからだった... 続き/Page
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(C)
柳澤 徹 北海道 2004・3 #6
鮭図 - 雪積もる北海道・網走 写真 |
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かつて、高橋由一がためらうことのなかったような、大きな可能性を秘めた 素敵なものの存在。 それを前にしたときに、素通りしてしまうことがないよう、鮭のやきものをつつくとき、飲んだあと
鮭の茶漬けをいただくとき、かの先人のことを...ときどき思い出してみることにしたい。
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■ 哀悼 経営学者、社会学者、心理学者...その、人間を中心においた深い洞察と、活動は、幾つものタイトルで受け止められ、また、自らが定義するところによれば「著述家」。 日本の絵画から得た、若き日の感動を基底として
明治維新を高く評価。 当美術館
世界芸術列伝
第151話にてご紹介させていただきました処女作 『『経済人』の終わり」』の中では、日本を
「東洋の一流国」と表現し、のちの、特に1960-70年代 経済成長期には、現場主義的な親しい著作活動をされた、いわば日本の友人とも言うべき、ピーター・F・ドラッカー氏
(1909-2005)が、本列伝公開日 2005/11/11のアメリカで、お亡くなりになったことを、知りました。 95歳。 できることなのであるならば、更なる著作を、拝見したかったところであります。 ご冥福を、お祈り申し上げます。
なお、当美術館創設時の構想においては、筆者が既に読んでいたドラッカー氏の著書
『ネクスト・ソサエティ
― 歴史が見たことのない未来がはじまる』が、大きな影響を与えました。 いつもお越しの皆様が、当サイトならではの
なぜかひと味違う魅力を、ありがたくも感じていただけているとしたならば、これがその重要な要素のひとつであるかもしれません。 |
● 上田惇生ホームページ ドラッカー氏の著作のほとんどを翻訳された上田惇生・氏のサイト。 「最近の執筆コラム」として「3分間でわかるドラッカー」が100本以上、「解題:ドラッカー30選」として30冊の本が解説、さらには、詳しい年譜や「ドラッカー名言解説」、「ドラッカー・アーカイブ」へリンクなど、内容が盛りだくさん。
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