古今東西を巡る総合芸術表現シリーズ 世界芸術列伝 第157話 2005/02/18公開
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■ 15年ほど前になるが、クリスト氏に、お会いしたことがある。
1991年に、日本の茨城と、アメリカ・カリフォルニアにて同時開催された、アート・プロジェクト『ジ・アンブレラズ(傘)』の実現に向けたアピールのため、来日した際のことだ。
以降、それまで実現させたプロジェクトを、写真家ヴォルフガング・フォルツ氏(ライカを使っていたように記憶している) が撮影した、B5ほどもある数々の美しい写真たちや、これから実現させる、3,100本の傘によるプロジェクトのための、幾つものドローイングの印刷物を、お送り頂いた。
そして、のちには、筆者も茨城で鑑賞・体感した、陽の光を浴びたアンブレラの鮮烈な写真や、ドイツ・ベルリンで、1995年に開催されることになる『国会議事堂の梱包』プロジェクトのドローイングの印刷物、写真や、その後に開催された展覧会の案内状も、お送り頂けるところとなった。
地味な色の封筒やパッケージの封を切ると、そこから出現してくるのは、壮大な構想たちである。 日常における瑣末な情念を、軽々と吹っ飛ばしてくれるかのパワーには、いつも感動を覚えた。
さて、現在、ニューヨークの
セントラル・パークでは、最新のアート・プロジェクト、『ザ・ゲーツ(門)』が開催中だ。
サフラン色の布が垂らされた、高さ約5メートルの門が、およそ37キロ・メートルに渡り、なんと7,500本も立ち並ぶ。 アメリカ国内はもちろん、世界中からファンが集まり、その下をそぞろ歩きながら、思い思いに、好きな時間を過ごす。
このアート作品の解釈は、自由だ。 現実と、布が揺れる連続した創作物とで、発生させられた、壮大な異空間において、ひとりひとりが、その想像力にて個人体験することこそが、クリスト&ジャンヌ・クロードの芸術でもあるからだ。
今から15年ほど前においても、やや枯れた印象のあった、ブルガリア生まれのアメリカのアーティスト、クリスト・ヤヴァシェフ 氏(1935-)であるが、いったん口を開くと、思いがけないほど、エネルギッシュなのである。 その言葉には、聴くひとを刺激し、想像を大きく膨らませ、動かしてしまう「力」がある。
実行可能であるとは、大方のひとが思わないプロジェクトを、奇跡のように、次々と実現してこれたのは、この天賦によるところが、大きい。
しかし、氏の活躍を拝見していると、信奉者であり、共同で活動展開している、ジャンヌ・クロード夫人が、その精神的エネルギーを、補給し続けているだろうことにも、やがて気が付く。 日本語でいうところの、「あげまん」の存在でもあるのだ。
ところで、今、日本で人気のブログのひとつに、実録
鬼嫁日記があるのは、ご存知だろう。 読んでみたならば、すぐに判ると思うが、芸術家クリストに誇りと、壮大な夢を抱かせ続ける、クロードとの夫婦関係とは、「対極的」といっても良さそうな人間関係が、そこに綴られている。
だが、創作のエネルギーを、作者に注ぎ込んでいるという構図において、両ペアに共通点があるのは、たいへん興味深いことである... Page
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(C) 柳澤 徹 北海道 2004・3 #5
雪積もる釧路湿原と河 SL冬の湿原号の走行する客車内より 写真 |
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2009年11月18日、ジャンヌ・クロードさんがお亡くなりなりました。 ご冥福をお祈り申し上げます。
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