知人の財務スペシャリストは、渡米の予定があったため成田へいったところ、あの911が起きて、飛行機に乗れず、引き返えしてきた。
まあ、それはよいとしても、やはり知人である法律家は、まさにそのとき、ニューヨークへ向かう便に乗っていたのだった!
幸い乗っ取られた機ではなかったが、アメリカ国内の飛行機着陸が全面禁止となったため、遠くカナダのカルガリーで降ろされてしまった。 相手方もおおわらわで、仕事はキャンセルになった上、日本に帰国するのに、1週間近くも要した。
そして、それを遥かにしのいでいるのが、知人の技術者だ。 日本企業の海外進出華やかなりし1980年代、中東で仕事を手がけていた。 ところが、90年代に入って情勢が急転するところとなり、第1次湾岸戦争の勃発が近づきつつあるころ、なんと人質になってしまったのだった。
その後、国連も含め多方面からの説得や尽力があって、のちに無事に還ってこれたのは、心底、よかった... 続き/Page
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さて、音楽家のプッチーニが、20世紀の前半に作曲した名作オペラに 『トゥーランドット』がある。 この歌劇でもっとも知られているアリアといえば、『誰も寝てはならぬ』であるが、これを歌う男は、このとき、「ほとんど知られていないこと」を頼りにして、勝負をしていたのだった...
歌劇 トゥーランドット あらすじ
( 初演 1926年 イタリア ミラノ )
ところは中国の北京。 時は定かでないが、過去は戦乱の世であった。
先祖からの怨念をひきずり、こころが氷のようになってしまっているのは、この国の姫、トゥーランドット。 彼女への求婚者が現れると、3つの謎に答えられれば夫にしようといい、不正解があると、こともあろうか、その命を奪っていた。
国が破れて、逃走の身だったのは、かつてのティムール国の王子カラフ。 北京で、求婚者の募集が行われていることを知る。 そして、姫をちらりと垣間み、美しさに魅了される。 そのこころの氷、自分こそが溶かしたい、また故国再興の願いもこれに賭け、応募することを決めた。
偶然にも、この北京でカラフと再会したのは、故国の娘リュー。 彼女は、以前よりカラフに密かな想いを抱いていた。 応募のことを知り、無謀なことはやめるよう嘆願するが、彼は決意を変えない。
挑戦の時がきた。 皆が集まっている城の前の広場で、姫から3つの謎がだされる。 そして、カラフは、みごと全部正解する。 この快挙に、皆はこころ打たれるが、頑なな当の姫は、納得できない。
そこでカラフは、もうひとつの賭けにでる。 次の夜明けまでに、自分の名を当てることができたなら、好きなようにするがよい、だが、当てられなかったら、約束どおり夫に迎えるのだと。
時間との闘いが、はじまった。 姫は北京の全ての民に厳命する、徹夜で彼の名前を調べよと。
夜のとばりの、ひとけのない広場。 カラフは時が過ぎるのを待ちながら、歌う...
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ジャコモ・プッチーニ
(1858-1924)作曲 歌劇 トゥーランドットより
誰も寝てはならぬ (Nessun dorma) |
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Nessun
dorma
Nessun
dorma, nessun dorma ... Tu pure,
o Principessa, nella tua fredda
stanza, guardi le stelle che
tremano d'amore e di speranza.
Ma
il mio mistero e chiuso in me,
il nome mio nessun sapra, no,
no, sulla tua bocca lo diro
quando la luce splendera, ed
il mio bacio sciogliera il silenzio
che ti fa mia.
(
Chorus : Il nome suo nessun
sapra e noi dovrem, ahime, morir.
)
Dilegua,
o notte ! Tramontate, stelle
! tramontate, stelle ! All'alba
vincero ! Vincero ! Vincero
!
誰も寝てはならぬ
誰も寝てはならぬ...か。 姫よ、あなたも眠れずに、冷たい部屋の中で、星を眺めているのだろう。 愛と希望に震える星を。
わたしの秘密は、この胸の中にある。 わたしの名前は誰にも分かるまい。 でも、あなたの口もとに、告げてあげよう。 朝の光が輝くころには。
そして、わたしの口づけが、沈黙を破り、姫はわたしのものとなるのだ。
(遠くから聞こえてくる北京の民の合唱
: あの男の名前は誰も知らない。 そして、あの姫のことだ、わたしたちの生命も終わりだ)
夜よ、消え失せろ。 星たちも沈んでくれ。 夜が明ければ、わたしは勝つ。 わたしが勝つのだ! |
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しかし、ここで思いがけないことが起きる。 かの娘リューが捕らえられてしまったのだ。 彼女は、彼の名を教えるよう強要される。 しかし、カラフを愛する気持ちから、衛兵の剣を奪い、果ててしまう。
そして、この顛末は、トゥーランドットの眼に、愛の持つ強烈な力を、焼き付けたのであった。
時は急ぎ足で過ぎ、空が白んでくる。 カラフは、リューの犠牲を胸に、姫に会いにいき、残る全てのひとのためにも、氷のこころを溶かそうとする。 しかし、姫のこころは動かず、彼は口づけを試みる。
するとどうだろう、先のリューの件に感化されたこともあってか、固かった姫のこころが、みるみる溶けていくではないか!
この勝利の嬉しさに、カラフはつい、自分の名前を教えてしまう。 すると、姫は、お前の名前が分かった、われと共に皆の前にでよ、まだ夜明けに間にあうと、いいだした。
すぐにも陽が昇ろうとしているころだった。 城の前の広場に、皆が勢ぞろいしている。 あっけにとられた様子のカラフも来ている。 姫は、なぜか微笑みを湛えていた。 そして、皆の前で、誇らしげにいう。
「やっと、彼の名前が分かりました......その名、それは 『 愛 (アムール) 』 です!」
輝かしい太陽が、生命をたたえるかのように、姿を現してくる。 皆の喜びの大合唱に包まれながら、姫とカラフは、しっかりと...抱き合うのだった。
(終)
本ページは、2004年4月、イラクにて日本人3人が人質となり、官邸および関係省庁が不夜城となり、国中が心配の念を寄せる中、無事の帰還を予言するものとして執筆・公開したものです。 間もなく、共感した方々が、ブックマークを次々と配信するところなり、多大な方々に読まれました。 現在は、オペラ・ファンの皆様に、普遍的に愛されるページとして、存在しています。