古今東西を巡る総合芸術表現シリーズ 世界芸術列伝 第194話 2007/09/07公開 |
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画家
ジョン・エヴァレット・ミレイ 方舟への鳩の帰還/ラファエル前派
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■ 学生のころ、旧約聖書を岩波で通読した。 その中でも、この世界観においての、根底的なものの考え方が示される『創世記』は、人間の存在ということについて、示唆性に富んでいると思えた。
その『創世記』には、つぎのようなお話がある。 物事を、相対(そうたい)で捉え考えることを得意とする日本人にとっては、なかなかもって強烈なものだが、今日においても、ときどき語られることがあるので、話の概略については、誰もが知るところとなっていることだろう。
神が、自分に似せて創った最初の人間アダムと エヴァは、楽園を追放されはしたものの、その子孫は地に増えた。 それ自体は良いことであったが、次第に、地上に悪が広まるようにもなった。 人々が、想うことと言えば、暴行など悪しきことばかりとなってしまったのだ。 神は、創造物に対して、深く悲しみ、そして、ある決断をした。
ただ、同時代の人の中においても、こころ正しき者はいた。 ノアであった。 神は彼に言った。
「正しきものノアよ。 方舟(はこぶね)を建造するのだ。 長さは300キュビト(150メートル位)、幅50キュビト(25メートル位)、高さ30キュビト(15メートル位)。 内部は3階建てにして、小部屋を多く設けよ。 開閉式の出入り口は側面に設け、天井には明り取りを設けるが、いずれも密閉できるようにし、内にも外にもアスファルトで防水処理をせよ」
船のスペックを細かく指定しているのは、創造主(クリエイター)であるからだ。 ノアとその家族は、山で木を切り、仕事にかかった。 努力の結果、大きさが、現代の石油タンカーにも匹敵する方舟が、山の中で完成した。 別途、神から言われていた通り、すべての動物のつがいを方舟に乗せ、ノアとその家族も入って、出入り口の戸は閉められた。
すると神は、豪雨を起こした。 それは途切れることがなく、40日間にも及ぶところとなった。 地上は大洪水になり、山の中にあったノアの方舟も、押し寄せる荒水に浮上し、漂流するところとなった。 水かさは、降り始めから150日後にピークに達することになるが、それ以前に、方舟を除く、地上のもののすべては、水中に没した。
驚愕の洪水が峠を超えたあと、方舟はどこかに引っかかったようであった。 それは、現在のトルコ東端にあるアララトの山の上であった。 ある日、ノアと家族は、意を決して天井の明り取りを開いて、烏を放ってみた。 烏は行ったり来たりして、結局戻ってきた。 次に鳩を放ってみたが、同じであった。 周りは、依然として水だらけなのだ。 いつになれば、治まってくれるのだろうか?
それから7日間を待って、再び鳩を放ってみた。 やはり、しばらくすると鳩は、戻って来てしまった。 いつとは知れぬようなものが、さらに不明なものになるとき、ひととは落胆をするものだ。
だが、鳩の様子をよく見てみると、そのくちばしに、何かをくわえているではないか! それは、オリーブの葉であった。 ということは、木々が現われ始めているということであって、地上から、水が引きつつあるということなのだ! 落胆は、たちまちの内に消え去り、希望と安堵の感情に、包まれるのであった... 続き/Page
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ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829-1896) 『方舟への鳩の帰還』
油彩 1851年 87×54cm アシュモレアン博物館(英国)所蔵
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この絵画作品を描いたのは、19世紀イギリスの画家、ジョン・エヴァレット・ミレイである。 2人の少女が、写実的に描かれている。 ノアの家族である。 背景の壁が黒色なのは、方舟の内部であって、防水のためのアスファルトが塗ってあるからだ。
床には、動物たちのための敷き藁がある。 光は、画面のやや右の上の方から、差し込まれている。 ここは、3階建て構造の3階部分で、その天井に、明り取りがあるのだ。
左側の少女は、緑色の服を着ている。 左手で白い鳩を抱え、右手に鳩がくわえてきたものを持ち、それに視線を投げかけている。 そして、オリーブの葉ということが意味することを、噛みしめている。 こうしてみごとに表現されている感情は、「希望」だ。
右側の少女は、白い色のケープをまとっている。 右手は、緑の少女の腕に添えられ、鳩には くちづけをしている。 ここにリアルに表現されている感情とは、「安堵」である... 続き/Page
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(C) 柳澤 徹 トルコ 2000・11 #11
『コンヤの庭園にて』 写真
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トルコ中央のやや南の方に、コンヤという町がある。 11〜13世紀には、セルジュク朝トルコの首都として栄えたという。 込み入った感じがなく、開放性があって、よく手が入れられて清潔な印象のする美しい街である。 その生き生きとした空気を感じながら、ここで過ごす時とは、それだけで価値があるように思える。
良質の絨毯を産出していて、大規模店では、選んだものの国際宅配が可能で、好きなひとが購入していた。 ここは、そんなお店に併設されている庭園である。
見栄えのある木が植えられ、それらの中にはオリーブオイルを入れるタイプもあるだろう、古風な焼物の壷が、あちらこちらと配されていた。 黒い子犬が放たれ、無邪気に走り回り、ここを訪れるひとのこころを、なごませていた。
ノアの方舟が、漂着したとされるアララトの山があるのは、トルコの東端なので、ここから、1,000キロメートルくらいの距離である。
■ アララト山・ウェブカム 現地が夜間でなく、空気の状態が良い場合、アララト山の現在の様子を、遠景にて見ることができる。 |
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