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古今東西を巡る総合芸術表現シリーズ 世界芸術列伝 第217話 2011/05/15公開

松尾芭蕉 おくのほそ道   Matsuo Bashou Oku no Hosomichi


 月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。

とは、17世紀の文学者、松尾芭蕉が、東北地方を訪ね歩いて記した紀行文集『おくのほそ道』の冒頭の一文である。 これに接するときひとは、その長大な時間的スケールの中に、溶け込むかのようにしながらも形態は保っているだろう自意識が、自己に与えられるであろう期間にとらわれることなく、時間軸といものの前後方向に沿って、伸びていったり縮んだりする感覚を得る。 現代の言葉にしたならば、おおむね次のようになろう。

月日、つまり今日とか昨日とか明日というものや、今月とか先月とか来月というものは、ひとのたとえば百世代にも渡るような想像もつかないような期間をも、味わい過ごしていく客、いうなれば永遠を旅する者である。 そうであるからまた、今年とか去年とか来年というものも、旅人である。


漂泊。 そんな言葉を想起させるこの一文に続き、芭蕉は、これがどのような意味合いのものであるかについて、具体例をあげて、語り始める。

舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらえて老をむかふる物は、日々旅にして旅を栖とす。 古人も多く旅に死せるあり。

船頭として、船を漕いで動かし、ひとやものを運びながら、船の上で一生涯を送ったり、馬子として、馬のくつわをとって動かし、ひとやものを運びながら老いを迎えるひとは、今日も昨日も明日も旅をしているのであり、旅自体が居所である。 西行や杜甫など、わたしが敬慕する文人たちの中にも、旅の最中に客死したひとも、多く見受けられる。


予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ、去年の秋、江上の破屋に蜘の古巣をはらひて、やゝ年も暮、春立る霞の空に白川の関こえんと、そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて、取もの手につかず。

かく語るわたしも、いくつくらいになったころかは今となっては定かではないが、空にちぎれ雲を漂わせる風がわたしを誘ったりすると、漂泊への思いを止めることができなくなった。 一昨年などは、名古屋・伊勢など東海、そして大阪・神戸など阪神と、海浜の土地土地をさすらい歩いてしまった。 昨年の秋になって、東京の隅田川のほとりにあるあばら屋に帰って、蜘蛛の巣をはらうなどして、落ち着いたものの、やがてその年も暮れて、春の霞の立つ空を眺めながら、この春のように北上して、関東と東北の境にある福島の白河の関を越えてみたいなどと妄想すると、すぐさま、ひとのこころを誘惑する神様が、わたしに乗り移っては、こころを乱し、さらに、道を往来するひとたちを守護する神様の、手招きにまでも遭って、取るものも手につかない。


自分ではなぜなのか分からないほどに、なにかがとても好きなひとの心情を、芭蕉は、たいへん簡潔な文言を使いながら、驚くほど想像力に溢れた文章でもって綴る。 芭蕉の場合、自分ではなぜなのか分からないほどなのは、神様が乗り移ってきたり、手招きをするからであるらしい。

旅は楽しい。 それぞれの旅に、それぞれの苦労もあるかもしれないが、あとになれば、それらさえも達成感を伴う良い思い出に変わる。

5月のなかば、芭蕉は東北の旅に出立する。 千住のあたりから歩き始め、埼玉の草加などを経る。 長大なる旅のはじめでは、再び生きて帰れるだろうかとか、旅の装備品の重さなどに関心が行くが、平地もやがて山がちとなっていく、栃木の日光のふもとあたりまでくると、しだいに旅情にと浸りはじめる。


卅日、日光山の梺に泊る。 あるじの云けるやう、「我名を佛五左衛門と云。 萬正直を旨とする故に、人かくは申侍 まゝ、一夜の草の枕も打解て休み給へ」と云。

30日、日光山の麓にある民家に泊まった。 そこの主人が次のように言った。 「わたしは、ほとけ五左衛門といいます。 なにごとにつけも正直を信条としていますところから、世間のひとがほとけなどど申しているのですよ。 まあ、一晩の旅の枕も、寛いで過ごしてください」。

いかなる仏の濁世塵土に示現して、かゝる桑門の乞食順礼ごときの人をたすけ給ふにやと、あるじのなす事に心をとゞめてみるに、唯無智無分別にして、正直偏固の者也。 剛毅木訥の仁に近きたぐひ、気禀の清質尤尊ぶべし。

いったいどのような仏様が、けがれたこの世にあらわれになって、このような僧侶すがたの托鉢であるかの者を、お助けになるのであろうかと、主人のなさりようを心眼で拝見したところ、なにかの成果を期待して、智恵や分別を利かしているわけでなく、ただひたすらに、正直なひとなのであった。 まさに、論語に書かれているところの、「こころが強くて飾り気がなく寡黙なひとに、逸材が多い」を地でいく人物であった。 このような持って生まれた気質は、もっとも尊ぶべきものだ。


こうして芭蕉は、叙情に溢れる日光、そして、風さわやかな那須を経て、いよいよ、文人にとっての「聖地」ともいうべき白河の関へとやってくる。 ここから先が東北。 白河の関は、いわば「ルビコン川」なのだ。 その感慨の深さを表現するために、芭蕉は、同行した弟子の曽良の詠んだ句を本文に載せる。 文字通り、「絶句」をしたのだった。

心許なき日かず重るまゝに、白川の関にかゝりて、旅心定りぬ。  いかで都へと便求しも断也。 中にも此関は三関の一にして、風騒の人、心をとゞむ。 秋風を耳に残し、紅葉を俤にして、青葉の梢猶あはれ也。

ここまで落ち着かない日々を重ねてきはしたものの、いよいよ白河の関にまで来てみると、旅に徹する心構えがついてきた。 平兼盛が、「たよりあらば いかで都へ 告げやらむ 今日白川の 関は越えぬと」と、関越えの感動を詠んだのも、もっともなことだ。 関所は数あるが、白川の関は、東北三関のひとつであり、風雅を求めるひとたちが、こころを寄せる場所なのである。 能因法師が詠んだ「都をば 霞とともに 立ちしかど 秋風ぞ吹く 白河の関」の、風の音を想像の中で聞き、源頼政が詠んだ「都には まだ青葉にて 見しかども 紅葉散り敷く 白河の関」の、もみじの絨毯を歩む感覚を想像の中で感じながら、眼前の青葉のこずえをながめると、実に趣き深い。

 
 
(C) 柳澤 徹  木々のあいだから青空が見える  福島・いわき 2010・8 #1 写真
 

(C) 柳澤 徹  木々のあいだから青空が見える  福島・いわき 2010・8 #1 写真

 
 
 

卯の花の白妙に、茨の花の咲そひて、雪にもこゆる心地ぞする。 古人冠を正し、衣装を改し事など、清輔の筆にもとゞめ置れしとぞ。

卯の花を かざしに関の 晴着かな  曽良

その一方で、丁度、真っ白な卯の花が重なりあって咲いていて、そこに茨も寄り添うように白く咲いていて、あたかも雪の白河の関を越えるような気分もする。 むかし、竹田大夫国行が、先の能因法師の歌に敬意を表して、冠をかぶり直し衣服を整えてからこの関を越えたと、藤原清輔が書いているということだ。

この関を通るとき古人は、冠を正し、衣装を改めたということなのだが、
そのような用意もないわたしは、卯の花を、太古ふうに髪にさして通ろう。 曽良

 

芭蕉入門 (講談社学術文庫) 井本農一著
 
 
 
 
 

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 8世紀 中国 盛唐の詩人 孟浩然 春眠暁を覚えず

 10-11世紀 日本 平安時代の文学者 清少納言 随筆 枕草子
 12-13世紀 日本 鎌倉時代の文学者 鴨長明 随筆 方丈記
 13-14世紀 日本 鎌倉時代/南北朝時代の文学者・歌人 吉田兼好 随筆 徒然草

 13-14世紀 イタリア ルネサンスの詩人 アリギエリ・ダンテ 神曲

 15-16世紀 イタリア ルネサンスの画家 サンドロ・ボッティチェリ 春 ラ・プリマヴェーラ

 15-16世紀 イタリア ルネサンス盛期の彫刻家・建築家・画家・詩人 ミケランジェロ・ブオナローティ

 17世紀 日本 江戸時代前期の俳人 松尾芭蕉 おくのほそ道
 17世紀 日本 江戸時代前期の俳人 松尾芭蕉 古池や蛙飛び込む水の音
 18-19世紀 フランス ロマン主義の小説家 フランソワ・ルネ・ド・シャトーブリアン アタラ ルネ / フランス 新古典主義の画家 アンヌ・ルイ・ジロデ・ド・ルシー・トリオゾン フランソワ・ルネ・ド・シャトーブリアンの肖像
 19世紀 フランス 象徴主義(サンボリズム)の画家 ギュスターヴ・モロー スフィンクスとオイディプス
 19世紀 ロシアの音楽家 ピョートル・チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 / 夏目漱石 小説 草枕 / ちあきなおみ 喝采
 19世紀 イギリス ラファエル前派の画家 ジョン・エヴァレット・ミレイ 方舟への鳩の帰還
 19-20世紀 フランス 象徴主義(サンボリズム)の画家 オディロン・ルドン フラワーズ ヴィオレット・エイマンの肖像
 19-20世紀 イギリスのSF作家 H.G. ウェルズ 宇宙戦争
 19-20世紀 イギリスのSF作家 H.G. ウェルズ タイムマシン / ソビエト連邦崩壊 欧州統合のあゆみ

 19-20世紀 アイルランドの詩人・劇作家 ウィリアム・バトラー・イェーツ / SF作家 レイ・ブラッドベリ 華氏451度 / 映画監督 カート・ウイマー リベリオン

 19-20世紀 日本 明治-大正時代 小説家 夏目漱石 吾輩は猫である

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